1.  米国が果たした再生への道

ホワイトハウス、ワシントンDCでの会議、2007年
ホワイトハウス、ワシントンDCでの会議、2007年

米国は、かって財政の赤字、貿易収支の赤字を抱え、大変困っていた時期があった。それがいわゆる、奇跡の復活を遂げる。私自身も、米国がこのまま衰退して行くのではないか、と思った時期があった。

 

 その米国が、不死鳥のように蘇る、その理由を書いてみたい。財政赤字が大きい日本の参考になる、と思うからである。 

 

  米国が立ち直ったのは、創造性、それは大変な努力を伴うものだが、その創造性、イノベーションにあると思う。具体例をあげると、ビル・ゲイツ氏は、ハーバード大学を中退し(学部の2年生か3年生)、数人でマイクロソフトを作る。そのマイクロソフト社は、世界の大企業に成長し、世界を席巻する。彼は一介の学生から、大企業のトップになり、大富豪、それも世界一の大富豪になる。一方スティーブ・ジョブス氏は、アップル社を作り、これまた世界を席巻する。アップル社は、家のガレージ(車庫)を利用して始まった、という伝説がある。私が若干知っている、ビル・ゲイツ財団(社会奉仕団体)は、4兆円の資産を持つ。年に2000億円から3000億円を慈善事業に使う。4兆円というのは、日本の年間の税収の十分の一である。

 

 米国の大学生は、自主性が高く、また結構勉強し、努力するように思う。日本で3K、きつい、汚い、危険, それは嫌だ、と言っていては、話にならない。(世界の落伍者になる?) 図書館を夜遅くまで利用して頑張る。日本の大学生より、ずっと勉強しているだろう。 産業の分野は、時代と共に変わって行く。米国は、鉄鋼、電気製品、などの分野では、世界と太刀打ち出来なくなったが、I T の分野では、世界を制した。遺伝子の分野でも、世界を制している。イノベーションの例として、ある個人的な思い出を書くと、米国のある友人の娘さんは、高校時代から大変優秀だったが、ハーバード大学に学び、学生時代に会社を創業する。

 

 日本も、敗戦後の廃墟の中で、チャレンジ精神が旺盛な人たちが居た。それは日本の奇跡の復興につながる。例えばソニーは、世界で初めてトランジスター・ラジオを作る。これは世界を席巻する。アフリカの、マダガスカル島の人が、現地では、トランジスターラジオを、ソニーと呼んでいる、と私に語ったのを思い出す。その前は、真空管を使ったラジオであり、今のテレビのように大きかった。 テープレコーダーも、ソニーが世界で初めてつくる。盛田さんから(井深さんと並ぶ創業者)、海外で聞いた講演だが、大きなテープレコーダーを抱え、宴席に出て、芸者さん達に使い方を教えたり、販売に苦労したそうである。当時誰も知らない新製品で、何に使ったら良いのか、良くわからない時代である。

 

 米国での他の強みは、世界で最も優秀な人たちが、期せずして集まってくる事である今度ノーベル物理学賞を受賞した中村さんも、グリーンカード(永住権)か市民権をもち、米国で働く。米国に人材が集まるのは、英語は国際語で、言語の壁が低い、自由な国で住みやすい、働く上でのシステムが優れている、高い報酬が得られる、などの条件によるのだろう

    人口が減少する日本で、海外から優秀な人たちを呼び寄せる戦略を、検討できないものだろうか?                   (ブログから移す)

 

2. 日本は崖に近づいている

我々の年齢の者が集まると、日本の将来が大丈夫だろうか、そういう話題が出る。日本が断崖に近づいているのは確かであり、多くの者が、そういう危機感を共有している。20年ぐらい前だっただろうか、「日本の滅亡」という題の本を出そうと思い、出版社に当たったことがあった。本のタイトルがひどいのでどうもと言われた。本当に大変な状態なのだが。

 

 日本の人口減少が、大問題である。理論的には、40年ぐらい前に人口減少が始まった。しかし、誰もそれに気づかないし言わない。ベビーブーム世代の人口が大きいため、子供を産む世代の人口が大きいため、年に何十万人人口が減る、そういう形では表面に現れなかった。しかし、ベビーブームの人たちも、高齢者の仲間入りをした。その子供の、第二次ベビーブームの人たちも、かなりの年齢になり、子供を産む年齢ではなくなった。それで今後は、すごいスピードで、毎年の人口の減少が、表面にでてくることになる。

 

 そして、あと200年もすれば、この国に日本人は僅かとなり(1,000万人台)、中国人、韓国人、東南アジア人の国になる可能性が高い! はなはだ残念なことだが。それ以前でも、生産に従事する人口が大きく減り、日本の経済力に、大きな打撃となろう今世紀中に、今の日本の大学の半分以上が、学生の減少のため、赤字で存続できなくなるだろう。

 

 専門的で恐縮だが、女性を対象とした純再生産率という指標が有り、人口の推移を最もよくあらわす。子供を産むのは、当たり前のことだが、女性であり、女性に対象を絞った指標である。人口の維持には、1.0 以上が必要である。 世界で 2や3、あるいはそれ以上の国はざらにある。ある国で2であれば、理論的には、一世代に2倍に増える。 日本は長年にわたり、0.6ー0.7 である。一世代(30年ー40年)の間に、理論的には、30-40%減少する。なおこの指標は、母の年齢別の出生率と、生命表から計算される(生命表からは、生まれた子供が、その母親の年齢になる迄の生存率を求める)。 なお一般には、男女を一緒にした、合計特殊出生率が、指標として使われている。合計特殊出生率で見ると、人口を維持するためには、約2.1以上が求められる。

 

 話題を変えて、日本政府の財政状況をみると、毎年巨額の赤字を抱える。国の支出の半分は、国債に頼っている。戦争でもしており、臨時に大変な支出がある、そういう国ならともかく、平時に国の歳出の半分が借金というのは、不思議な話であり、放置できない財政状況である。ヨーロッパで、EUに加盟を申請する場合の条件の一つは、健全な財政である。今の日本では、加盟条件は到底クリアできない。EUで悪名高いイタリアより悪い。どうしてこうなったのだろうか?

 

 日本が、今や崖のそばに近づき、がけから落ちそうだ、という危機的な時に、国会ではウチワを配った、ウチワとしての価値が有る、無い、などの議論をしていた。12月の総選挙の直前のことだが。その見識の低さに、呆れざるを得ない。何のために、多額の歳費をもらって議員になっているのだろうか。現在の火急な大問題に、なぜ本気で取り組まないのだろうか!                                               

3. すべては人にあり、いまや教育を見直すべき時 

 国の活力を考える場合、誰もが知っているように、日本は山の多い小さな国で、至って資源に乏しい。自然の資源が乏しい以上、国の活力は、人的な資源、人材に頼るほかない。その人材の問題で、戦後の教育は、大きな過ちを犯したのではないか、と思われる。

 

 一例を上げよう。私どもの時代には、「清く、正しく、美しく」というモットーが広く知られていた。宝塚少女歌劇団のモットーも、「清く、正しく、美しく」だそうである。ちなみに宝塚少女歌劇団は、戦前に阪急の、小林一三さんが創立したものである。このモットーは、私の近くの小学校では、信じられないように変えられている。「強く、楽しく、美しく」に変えられ、玄関の誰もが見る石に刻まれている。生徒達は、このつまらぬ、改悪されたモットーを、毎日見て校舎に入る。「清く、正しく」が、「強く、楽しく」に変えられてはたまらない。倫理性が全く無視されている。これでは学校は、得手勝手な人間の育成の場になってしまう。各学級には、複数のモットーが示されている。その中には、「世に役立つ人になろう」とか、「世のリーダーになろう」とか、「親に孝行する人になろう」、そういうモットーは、全く見かけられない。


 別の角度から一言。ハーバード大学の総長が来日した。「ハーバード大学で、中国人、韓国人の留学生は、毎年ドンドン増える、一方、日本人の留学生は、毎年ドンドン減る、一体どうなっているのだろうか」と、日本を心配しての発言があった。日本の担い手は、若い世代に移って行く。この激しい国際競争に、競争に勝ち、生き残れるのだろうか、心もとない話である。電車に乗れば、スマホに夢中な若者ばかり目につく昨今だが。                                   (未完)

4. 英国の繁栄と、ハイスクールと、旧制高校

英国は、長年にわたり、世界列強のトップで有り続けた。豊かになると、家でも国でも、油断が生じ落ち目になりやすい。二代目、三代目になると、たちまち家業が傾く。日本は英国に随分助けてもらった。薩摩は英国の援助により、明治維新を成功させることができ、日本の近代化への道を開いた。明治の後半に日本は、強国ロシアと戦うが、この戦いに勝ったのは、英国と同盟を結んでいたことが大きな助けとなった。

 英国は、どのようにして、その地位を長く保てたのだろうか。多くの識者が指摘するのは、英国のハイスクール制度が、英国のリーダーを生み出すのに、大きな貢献をした事実である。明治の日本は、そのハイスクール制度をお手本とし、一高(第一高等学校)を始めとする、旧制高校の制度をつくった。旧制高校は、日本のリーダーを生み出すのに、大きな役割を果たした。戦後GHQは、旧制高校をなくしたが、これは日本の大きな損失であった。


 ハイスクールは、全寮制度である。人間形成の最も大事な少年の時期に、規律正しく、質実な生活を送る。ラグビーなど、スポーツで体を鍛える。たとえ貴族の子弟であっても、家に居れば贅沢で、放逸な生活?をしても許される少年が、ハイスクールで鍛えられる。いつだったか、ハイスクールの中でも特に有名なイートン校を訪問し、強いインパクトを受けたことがあった。英国の首相を輩出した学校である。       未完