地上で もっとも危険な動物 New !

 

 ある海外の動物園での経験である。ニューヨークかデトロイトだったろうか。広大な園内を歩くうちに猛獣のセクションにゆきあたった。トラやライオンはもとより、ジャガー、ワイルドキャッツ、その他の檻(おり)がはてしなく続く。ほの暗い舎内にいかにもどう猛な連中が、底光りのする目でにらんだり、低いうなり声をあげて寄ってきたりする。こちらは安全だと思っても、思わず身がすくむ。たけだけしい動物を見尽くして、もうたくさんだと思ったところに、もう一つ、最後の檻がある。皆さんは、どんな動物がそこにいたと思われますか?

 

 その檻には、動物のかげが見当たらない。おかしい、そんなはずはない。薄暗いなかを目をこらしてみても何もいない。気がつくと正面奥に鏡がおいてあり、自分の姿が映っている。その檻の動物名には「地上で最も危険な動物―ホモサピエンス(人類)」と書かれている。思わず苦笑し、同時に深く考えさせられ、全く本当のことだと思う。


 地球誕生いらい何億年,何十億年たったか知らないが、人類ほど他の生物を殺し、押しのけ、自分たちだけの繁栄を築いた生物はいない。現在、野生の動物の多くが絶滅したか、あるいは絶滅の危機にひんしている。動物は生存のためのみに他の動物を殺すというが、人間は、遠くはただ「キバ」をとるだけのためにインド象を殺したり、近くは暖かい九州では必要もないのに総毛皮のコートを着たりする。

 

 人間は神のような性質と悪魔性を同時にもっていると思う。それを忘れると、安易に、例えばプロレタリア独裁を考えたりする。そして絶対の独裁者が、スターリンの悪名高い血の大粛清を招いたり、毛沢東晩年の文化大革命の大混乱、その帰着の四人組裁判などを生じさせる。

 

 現下の少年非行の激増も、子供の性を善ときめつけ、西洋の諺(ことわざ)にある「鞭(むち)を惜しんで子供を台無しにする」、鞭が必要である側面を忘れたためではないのか。教育に限らず日本の多くの面で、考え直す必要が多々あるように思われる。                                                    (1984/3/9)