果物と健康 果物の常識と非常識

 

 QA 20021月 大阪放送)   廣畑 富雄

  聞き手 桂九雀 さん 

 

Q 今度大阪に、果物と健康について、講演にこられたと いう事ですが

 

A 昨年の4月から、果物200g運動が始まりました。 全国的に普及活動が行われています。 東京と大阪で、普及のための講演会が開かれます。 大阪では 明日 講演会があり、私は「果物は健康のみなもと一果物の常識と非常識」という題でお話します

 

Q 果物200g 運動とは、どんな運動ですか?

 

A 果物を食べることは、健康を保つのに大切です。 ところが最近、果物を食べない、あるいは食べても少なすぎる人が増えてきました。 それで健康を保つために、毎日「200g以上果物を食べよう」、そういう全国的な運動です。

 

Q 大阪放送で半年間、この年末まで “フルーツ・ステーション、耳より情報”という番組を 担当して頂きましたが、それとも関連があるのですね

 

A そうです、 基本は同じで、果物は健康に良い、もっと食べましょうということです。 “フルーツステーション、耳より情報”では、毎週水曜日、果物が健康に良いという事を、いろんな角度から お話しました。 私が果物と健康という問題に、とくに関係するようになったのは、がんの研究を通じてです。 私を含め、世界の15人の学者が、食生活とがん予防との関係を、世界中の研究例を集めて検討しました。 その結果を 膨大な報告書にまとめて発表し、世界的に大きな反響を呼びました。 この中で、 果物と野菜を豊富に食べることが、がんの予防に非常に重要だ、と言うことを 明らかにしました。

 

Q 果物を食べることが がんの予防につながるのですか? これは知らない方のほうが多いでしょう

 

A そうです。 ですから今聞いていらっしゃる方は、是非覚えておいて頂きたいですね。 おいしい果物を食べてがんを予防する、ありがたい事ですね。 例えば、胃がんと果物の関係を見ると、果物を多く食べる人は、全く食べない、あるいは食べても、量が少ない人に比べて、胃がんが1/3以下になるのです。 他のがんでも、果物を多く食べることが、食道がん 口腔咽頭がん 膀胱がん など8種類のがんの予防に役立つことが分かりました。

 

Q 明日の先生の講演ですが、「果物は健康の源、果物の常識と非常識」というのは面白い題ですね。 どういうことでしょうか

 

A 果物と健康について、どうも一般の方に、正しく理解されていない点があります。 一般に 常識になっていることが、 間違っていることがあります。 正しい知識を持って頂きたい、という事でこういう題をつけました

 

Q もう少し詳しく話して頂けますか

 

A 例えば、先ほど言ったように、果物を食べることが がんの予防につながる、 こういう事は 知らない方が多いのです。 果物とがんは関係が無い、常識的にそう思っている方が、大部分ではないでしょうか

 

Q 果物のどんな成分が、がん予防に役立つのでしょうか?

 

A まずビタミンCですね。 これは胃の中で、 発ガン性物質ができるのを防ぎます。 他に抗酸化性の成分があります。 酸素が 酸化作用により、DNAや 蛋白質に 傷をつけますが、それを防ぐ成分です。 ビタミンE、 カロチノイド、などがあります。 さらに大腸をきれいにする 食物繊維があり、これも大切です。 ほかにも植物性の化学物質(フィト・ケミカルズ)といって、良い成分がたくさんあります。

 

Q がんと果物の他に、どういう非常識があるのでしょうか?

 

A 果物を食べると太るという常識です。 最近果物を食べる人が減ってきました。 若い女性の方は、スタイルを気にして、果物を食べると太ると思って、食べない人がいるようです。 しかしこれは誤解ですね。 むしろやせたい人は、果物を多く食べるべきだ、と我々は考えています

 

Q それはどうしてですか?

 

A つまり 果物にはいろいろ良い成分があるのですが、 カロリーは低いのです。 果物の大部分は、つまり果物の重さの80%から90%は水分ですから、カロリーは低い。 同じ重さで カロリーを比較してみると、果物は、肉やお菓子の10分の1のカロリーしかありません。 お菓子は甘くてカロリーがある。 果物も甘い。 だから果物は、お菓子と同じようにカロリーが多い、と思っている人がいます。 しかしそれは誤解です。 例えば桃は甘い、しかし普通のサイズの桃を食べて、カロリーは85 kcal 位です。 ご飯1杯が240 kcal ぐらいですから、桃1個は、ご飯お茶碗一杯の、半分から 三分の一のカロリーしかありません。 桃を2個から3個食べて、やっとご飯の1杯分です。 肉や菓子に比べ、果物は十分の一のカロリーしかありません。一桁違って少ないのです

 

Q そうですか、 それは良く分かりましたが、 何で果物を食べるとやせるのでしょうか?

 

A 人間の胃の大きさ、胃袋の大きさは決まっていますね。 ですから果物は、 大きくて 重いわりにカロリーが少ない。 果物を多く食べると、それだけ ほかのものが食べられません。 それでやせるのです。 むろん健康のためには、果物だけを食べるのではなく、バランスよく食べることが大切です

 

Q 先ほど がんと果物の話を伺いましたが、他の病気はどうでしょうか?

 

A 他の成人病、 最近は生活習慣病といっていますが、 脳卒中や心臓病の予防にも 果物を多く食べるとよい、そういう事が 次第に明らかになりました。 考えてみると 人間は元来、 果物や野菜を豊富に食べるように作られているのですね。 これは歯を見てもわかります。 人間の歯はライオンや犬の歯のように、先がとがってはいません。 つまり動物を殺して食べるようになっていない。 平べったい歯で、植物性の食物、果物や野菜、そして穀類を多く食べるように出来ているのです

 

Q 他の病気との関係を もう少し話してください

 

A 心臓病と果物について、 去年の3月 重要な研究が発表されました。 2万人の人を検診して、血清中のビタミンCの濃度を測る。 そしてその人たちを長く観察してみると、ビタミンCが多い人ほど、心臓病が少ないのです。 一番濃度が高いグループは、一番濃度が低いグループに比べ、心筋梗塞や狭心症が、70%も少なかったのです。 果物にビタミンCが多い事はご承知のとおりです。 ただし果物や野菜には、 ビタミンCのほかに 体に良い成分がたくさんある。 ビタミンCの濃度は、どれぐらい果物や野菜を食べているか、その指標なのですね。 この研究は、野菜や果物を豊富に食べる人は、心臓病になりにくいことを示しています。

 

Q 脳卒中はどうでしょうか?

 

A 脳卒中の大部分は、高血圧によって起こります。 果物の中には、カリウムが豊富にあり、これの働きで 高血圧を防ぐ作用があります。 以前東北では 高血圧の人が多く、脳卒中もとても多かった。 ところがりんご農家で、りんごをたくさん食べる人は、血圧が低く、脳卒中も少なかったのです。 カリウムを多く含む果物は、脳卒中の予防にも役立つのですね。

 

Q 他にも 正しくない常識といえば どういうことがありましょうか?

 

A 日本は高度経済成長に支えられ、ずいぶん豊かになりました。 それで果物の消費もどんどん増えている、と思う方がいらっしゃる。 しかし実際は 日本人の果物消費量は、国際的に見て非常に低いのです。 恥ずかしいぐらい低くて、これは残念な事です。 この番組を聞いている方は、果物を豊富に食べて、健康生活を送っていただきたいと思います。 無論食生活は バランスが大切ですね。 偏らない食生活が大切です。

 

Q 果物の中で 特に健康に良い、 あるいは健康に悪い果物、というのはあるのでしょうか?

 

A それはありません。 食べるときに、この果物は良い、この果物は良くない、 そういうことはありません。 なるべく偏らずに食べてください。ただ私が今まで話してきたのは、新鮮な果物の話です。 缶詰めや瓶詰めの果物は、むしろお菓子類と同じに考えてください。

 

Q 今までのお話で 果物と健康の話は良くわかりましたが、では具体的に、 どれぐらい食べたらよいのでしょうか?

 

A 果物200g運動は、毎日果物を200g以上食べてほしい、という運動です。 200gといえば、 みかんなら 普通サイズで2個、りんごなら1個より少し少ない、柿なら1個、桃なら1個より少し少ない、それぐらいの量です。 米国では、この量の2倍から3倍を勧めています。 つまり、みかんなら6個、りんごなら23個、 柿なら3個ぐらい というように、量が多いのです。 私の考えは、アメリカ並みに多く食べてよいと思っています。

 

オーストリア、ウインにて: 豊富な果物の販売
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